救急車で運ばれた日にかぎって

救急隊員、緊急病院の方々、今回お世話になった皆様ありがとうございました。
爪 切男 2026.03.26
読者限定

ご無沙汰しております。爪切男です。

体調を崩してぶっ倒れてしまい、しばらく療養しておりました。毎日更新すると言っていたのに、この体たらく。お恥ずかしいったらありゃしない。ご迷惑をおかけした皆様、大変申し訳ございませんでした。献身的に看病をしてくれた妻には心から感謝しております。

ようやく仕事を再開できるところまで体調が戻りました。少しずつだが、頑張って書いていきます。どうかお付き合いください。

せっかくなので、今回の顛末を少しだけ。

あの日、これまで経験したことのないレベルの眩暈に襲われた。横になっても天井がぐるぐる回る。吐いて、落ち着いたと思ったらまた吐く。さすがに危険だと判断し、救急車を呼んでもらった。

駆けつけてくれた救急隊員の一人を見た瞬間、「加勢大周に似ているな」と思った。

死にかけているときに考えることがそれなのか、と自分でも思う。でも実際そうだったのだから仕方がない。体は限界なのに、頭の中だけは妙に忙しい。

人生で初めての救急車だった。

申し訳なさと情けなさで、心の中で懺悔を繰り返していたが、もうひとつ問題が起きた。車内が思っていたよりも狭いのだ。自慢じゃないが、私は閉所があまり得意ではない。

「すみません、少し閉所恐怖症気味で……」

そう伝えると、隊員の方がカーテンを少し開けてくれた。ほんのわずかな隙間から外の景色が見える。それだけで救われた気がした。

病院に着くと、処置室ではスタッフの方々が忙しそうに動いていた。ドラマ『救命病棟24時』で見た風景。江口洋介の顔がふと頭に浮かぶ。

私はその日、加勢大周と江口洋介のことを思いながら、眩暈を起こしていた。

「眼振はないね」
「血圧ちょっと高いね」
「採血と点滴、準備して」

さまざまな声が飛び交う中、ひとりの看護師が私を見て、ぼそっと言った。

「ハットリくん……」

その人は正しい。

だって私は『忍者ハットリくん』のTシャツを着ていたのだから。

人生で初めて救急車で運ばれた日に、それを着ているとは思わなかった。私は、患者である前に、まずハットリくんだった。

あの日関わった人は全員、最初の一瞬は同じことを思ったはずだ。

「あ、ハットリくんだ」

眩暈で死にそうな中年男が、ハットリくんのTシャツを着て運び込まれてくる。字面だけで少し面白い。不運なのか幸運なのかはわからない。ただ、こういう妙なことだけはきちんと起こるのが私の人生だ。

そこで、意識が途切れた。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、454文字あります。

すでに登録された方はこちら

読者限定
人はみな、本屋でひとりになる
読者限定
起きたこと、思ったこと
読者限定
わからないを楽しみたい
読者限定
新宿FACEとミラノ座の女装おじさん
読者限定
吐き方にも上手い下手がある
読者限定
私はトイレで必ず振り返る
読者限定
ゾンビに失礼だと思います
読者限定
レトルトカレーのように